施工管理アプリ現場管理親綱 親綱とは?労働安全衛生法対応|読み方・設置基準・張り方・注意点をわかりやすく解説 2025年12月3日 この記事をシェアする 高所作業では「落ちないこと」だけでなく「万が一落ちても命を守れる状態をつくること」が重要です。そのための必須装備が親綱(おやづな)です。 しかし、現場では「張り方が間違っている」「規格外ロープを使用している」「安全帯・墜落制止用器具が古いタイプ」など、法律違反や事故リスクのある状態で使われているケースも少なくありません。 そこでこの記事では、親綱の概要や意味、種類、設置基準、張り方、よくある不備まで、建設現場の実務目線でわかりやすく解説します。 親綱(おやづな)とは? 親綱とは、高所作業時に作業員の「墜落」を防止する命綱(ライフライン)のことです。作業者が装着する「墜落制止用器具(一本吊り型のフルハーネス・腰ベルト)」のフックを、建物等に固定された親綱に接続することで、転落時の衝撃を吸収し、致死事故を防止しやすくなります。 水平・垂直親綱の役割の違い 親綱には、大きく分けて水平親綱と垂直親綱の2種類があり、次のように使用目的が異なります。 種類 設置方向 主な用途 特徴 水平親綱 水平方向 (横吊り) 足場・鉄骨・屋根作業 移動しながら作業する際に使用 垂直親綱 上下方向 (縦吊り) はしご・タラップ・梯子昇降 昇降時の墜落防止に用いる 参考:厚生労働省「安全衛生用品の種類と特徴」 基本的に昇降移動時に用いるのが「垂直親綱」、水平移動をする際に用いるのが「水平親綱」というイメージです。 親綱の種類と構成部材の基準【法令対応】 親綱は「ロープだけあれば良い」と誤解されがちですが、実際は複数の部材が連動してはじめて安全性が確保されます。ここでは、高所作業の安全対策として用いられる親綱の材質や規格、さらに設置する鋼製部材を、最新の労働安全衛生法に基づきまとめました。 親綱ロープの材質と規格(合成繊維・ワイヤー) 親綱の材質はすべて、ナイロン等の合成繊維の強度を確保でき、日本工業規格(JIS規格)に適合していることが条件となります。(ワイヤーロープを使用する例もあり)また、厚生労働省の資料より、親綱は19KN(=1,938kgf)にも耐えられる荷重性能が求められます。 規格としてはロープ径12mm、14mm、16mmなどを使用するのが一般的です。 (参考:厚生労働省「安全衛生用品の種類と特徴」) 親綱支柱(スタンション) 親綱を結びつける支柱(スタンション)については、次のような堅固な構造物等に取り付けるのが一般的です。 建物の家屋にフック等で固定 近辺の強固な樹木に固定 重石(ウェイトバケット)を用意して固定 75kg以上の重量物(自動車等)に固定 なお、支柱のスパンは10m以下にするように定められています。 出典:厚生労働省「別表6 親綱支柱・支柱用親綱・緊張器等の使用方法」 親綱は、人が転落した際の引張荷重を支えられるのかを見定めて、支柱を選定しなければなりません。あらかじめ現場状況を確認し、親綱を固定できる場所があるのかを判断することが重要です。 (参考:厚生労働省「安全衛生用品の種類と特徴」) 親綱緊張器 親綱緊張器とは、親綱の張力を高めるために使用する器具のことです。親綱をピンと張った状態で固定し、墜落時のたわみを防止できます。 なお、厚生労働省では、緊張器について次のようにまとめられています。 シャックルを使用する場合はJIS規格に適合した製品を使うこと 作業員に危険が及ばない位置に設置すること もしJIS規格非適合品で作業員がケガをした場合などには、労災を適用できなくなる点に注意が必要です。 フルハーネス・フック フルハーネスやフックは、作業員個人が身につける墜落制止用器具です。参考として、厚生労働省が公開している「墜落制止用器具の安全対策ガイドライン」の基準を整理しました。 高さ2.0m以上の高所作業では、墜落制止用器具の装着が必須 高さ6.75m以下の場合では、腰ベルト型(一本吊り)の着用が必要 高さ6.75m以上の場合では、ハーネス型(一本吊り)の着用が必要 なお、以前まで高所作業で用いられてきた「安全帯」という名称はなくなっています。同様に腰ベルト型(U字吊り)も労働安全衛生法施行令の改正に伴い、削除されています。 出典:厚生労働省『安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!』 2022年法改正以降、フルハーネス型の墜落制止用器具が義務化されているため、古い胴ベルトなどをお持ちの場合には、器具の見直しが必要です。 親綱の正しい張り方|手順4ステップ 親綱は、点検→設置→テンション調整→墜落制止用器具接続までの手順を正しく行うことで安全性能が発揮されます。特にテンション調整と支柱固定が不十分な場合、墜落時に衝撃吸収ができず骨折・宙吊り窒息事故につながるリスクがあります。 そこで以下では、現場担当者・新人職人でも迷わず親綱を張れるよう、4ステップの実務手順をまとめました。 STEP1|使用前点検(損傷・摩耗・表示確認) 親綱を設置する前に、必ずロープ・金具・緊張器の状態を確認しましょう。特に以下のチェックが重要です。 確認項目 基準例 ロープ摩耗・擦れ・硬化 毛羽立ち・内部芯露出・変色は NG 製造年月・耐用年数表示 表示なし・消えている場合は使用禁止 金具・フック・緊張器 曲がり・腐食・ロック不良は交換 支柱 変形・ガタつき・固定不良がないか また、JIS規格に適合した器具なのかも確認することが重要です。現場資料として、適合証明証が整理されているかをチェックしましょう。(JISマークの確認も可) STEP2|支柱の設置(固定方法とNG例) 親綱支柱は、作業位置の高さに合わせ、腰より上の高さを基準に設置します。特に、足場では直交クランプで単管へ固定し、鉄骨や屋根の場合はアンカー方式や専用スタンションを使用するのが一般的です。 NG例として「支柱をタイラップやワイヤーで代用する」「支柱が左右に揺れる場所に設置する」といった行動は事故につながります。確実に堅固に固定できる場所を支柱としましょう。 STEP3|緊張器でロープを張る(テンションの目安) ロープは緩すぎても、張りすぎても事故リスクが増加します。一般的な目安としては、中央を片手で押したときに、たわみが10〜20cm程度出るくらいが良いと言われています。(あくまで目安です) また、緊張器の調整後は、固定部の緩みやロック状態を再確認しましょう。風や振動が影響する屋根・躯体作業では、定期的な再調整が必要です。 STEP4|墜落制止用器具を接続し最終確認 設置完了後、作業者はフルハーネスといった墜落制止用器具を装着し、フックを親綱へ接続します。なお、フックを親綱にかける際には、以下を確認しましょう。 フックは逆差し(誤装着)していないか ロープが障害物・鋭利部に干渉していないか 作業範囲を移動した際に常に接続維持できるか 確認不足が墜落などの事故につながるため、指差し確認を実施して安全を確保することが大切です。 親綱の設置についてよくある不備と事故原因|ありがちなNG例 親綱が正しく設置されていなければ、たとえ「安全設備」を準備していたとしても「事故リスク」につながります。 厚生労働省によると、令和6年時点で「墜落・転落(建設現場)」における死亡者数は188人となっています。悲しい事故にもつながることから、重大災害の多い建築現場では、「設置していれば良い」ではなく、「正しく設置し、全員が活用できているか」が問われます。 (参考:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」) 参考として以下に、現場で発生しやすいNG事例と、事故につながる仕組みを整理しました。 NG例 起こりうる事故・リスク 親綱が膝の高さ・低い位置に設置されている 転落時、体が下に振られ、衝突・頭部損傷・頸椎損傷が発生する 支柱が緩んでいる・固定が甘い 墜落時に支柱ごと倒れ、複数巻き込み事故に発展する たるみすぎ・振れ幅が大きい 落下距離が伸び、地面・梁・資材へ衝突する ロープが摩耗している・紫外線で劣化している 墜落衝撃に耐えられず、ロープが断裂する 墜落制止用器具を未接続の状態で「すぐ戻るから大丈夫」と考えてしまう 未接続状態が最も死亡率が高い 取り替え時期不明・管理台帳なし 転落時にロープが断裂する、予期せぬ事故が起こる 特に、作業者が墜落制止用器具・親綱の基準理解をしていない場合や、設置基準が会社・現場で統一されていない場合に事故が起こりやすくなります。事故を発生させないためにも、作業員には「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育(中小建設業特別教育協会)」などを受けさせることが重要です。 親綱の点検・廃棄基準チェックリスト 親綱は、経年劣化や度重なる使用で耐久性が落ちてしまうため、点検基準と廃棄基準に基づいて運用することが重要です。 参考として以下に、厚生労働省が公開している点検・廃棄基準をまとめました。 カテゴリ OK基準例 廃棄(NG)基準例 親綱・子綱 (ロープ) 問題なく見た目が良好な状態 ロープの糸が7本以上切れている 張り・柔軟性がある 毛羽立ち・摩耗・硬化・変色がある 形状が正常 ねじれ・コブ状の変形がある 継ぎ・編み込みがしっかりしている 編み込み部分が緩んでいる・抜けている 汚れはあるが機能に問題なし 薬品・塗料が付着して硬化している 金具部分が正常 シンブル(輪の補強金具)に変形・外れがある 緊張器 (ロープを張る器具) スムーズに動く 動きが硬い・動かない ロック・伸縮が正常 バネ折れ・脱落がある 摩耗が少ない 押し爪の凸が半分以上削れている 錆なし・変形なし 目視で変形・深いキズ(1mm以上)・錆だらけ ガタつきなし リベット緩み・ガタつきあり フック・カラビナ 確実にロックが動く ロックがかからない・戻らない 形が正常 変形・割れ・白錆・腐食がある 傷が浅い 1mm以上の深い傷・亀裂あり 安全ブロック(巻取式) 引けば止まり、戻せば巻き取れる ロックが作動しない・遅れる(30cm以上) 本体正常 本体に3mm以上の割れ・変形がある ストラップ正常 芯材露出・変形・波打ち・薬品付着硬化がある 縫製問題なし 縫い糸が1か所でも切れている 伸縮調節器・リング類 正常に伸縮する 伸縮しない・作動不良がある サビなし・形状正常 全体に錆・変形・深い傷(1mm以上)がある 金具締結正常 リベット緩み・摩耗(半分以上)がある 操作棒・パイロットライン・スライダー 破損・変形なし 割れ・変形・装着不可 作動正常 落下試験で止まらない・ロックしない 参考:厚生労働省「墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル(平成27年度)」 確認の抜け・漏れがあると、重大事故につながるかもしれません。自社用にチェックリストを準備し、担当者に共有しておくと安心です。 親綱設置状況など安全設置器具の点検はアプリで効率化しよう 親綱を含めて、安全設置器具の使用や管理で重要なのは、点検を実施することです。しかし、紙や個人スマホで管理していると、といった問題が起きがちです。 点検表が現場と事務所で分断 記録の抜け漏れ・紛失 確認の不備による事故発生 そこでおすすめなのが、「ミライ工事管理アプリ」です。アプリで点検項目に回答して、そのまま点検表を出力することができます。さらにデータはクラウドで共有されているので、点検の実施結果の確認が離れた事務所からでもリアルタイムに確認することができるため、安全管理報告の効率化の実現が可能です。 親綱や安全器具の点検と報告・共有を現場で完了したい方は、ぜひ無料プランから導入してみてください。業務の属人化や記録漏れを防げます。 iOSユーザーはこちら>> Androidユーザーはこちら>> ミライ工事について詳しくチェックする>> まとめ|親綱は「設置すればOK」ではなく「機能させて初めて安全」が重要 親綱は、ただ設置するだけでは安全を確保できません。正しい位置・適切な緊張状態・損傷の有無・使用履歴の管理・交換タイミングの判断まで含めて「機能している状態」が重要です。 特に現場では、点検漏れ・写真記録不足・書類管理の属人化が原因で、事故や是正指導、元請けからの書類戻しが起こるケースが少なくありません。人力でのアナログな管理・チェックに負担を感じている方は、クラウド管理アプリ等を導入し、建設DXをスタートしてみてはいかがでしょうか。 この記事をシェアする ミライ工事管理の詳細はこちら
工種とは?建設業の基本から分類・管理方法・種別の違いまでを徹底解説 建設業で頻出する「工種」という用語の意味や工事業務での位置づけにお悩みではないでしょうか。 この記事では、工種の概要や設定されている階層の情報をわかりやすく解説します。また、工種管理を実施するメリットや必要性も紹介してい […] 詳しく見る
安全パトロールとは?チェックリスト・やり方・おすすめアプリを紹介 現場ごとに安全パトロールの項目が変化するため、チェック漏れができてしまわないか心配だと感じている方、また手書きのチェックリストを使っているから集計や管理をしづらいといった悩みを抱えている建設関係者も多いのではないでしょう […] 詳しく見る
土工事とは?掘削・盛土・埋戻しの基礎と手順をわかりやすく解説 建設現場で真っ先に着手するのが土工事です。住宅やビル等の建設に先立ち、掘削・盛土・整地・埋戻しなどで所定の地盤条件を整える一連の工事を指します。 ここでは、土工事の定義と目的(基礎づくり・地盤安定)、代表的な種類、施工手 […] 詳しく見る
【無料あり】点検表のおすすめアプリ8選!点検表の電子化で現場を効率化!設備・日常点検に最適な現場点検アプリを厳選紹介 建設工事で用いられている点検表を、紙媒体からアプリへ移行しようと考えていないでしょうか。しかし、アプリの種類が多く、どれを選んでいいかわからないとお悩みの人もいるはずです。 そこでこの記事では、現場の点検業務を効率化でき […] 詳しく見る
墨出しとは?意味・種類・やり方・使う道具まで初心者向けにわかりやすく解説 墨出しは建物の正確な位置・寸法を示すための工事の基礎となる重要な作業です。もし墨出しが誤っていれば、その後の工事全体にズレが生じ、品質や安全性に大きな影響を及ぼします。 そこでこの記事では、墨出しの意味や目的、種類、実際 […] 詳しく見る
【無料DLあり】消防設備点検報告書(エクセル様式)の作成方法・注意点を徹底解説 「消防設備点検報告書をエクセルで作成しなければならないけれど、どこから手を付けたらいいのかわからない…」とお悩みのビル管理者・防火管理責任者の方も多いのではないでしょうか。 この記事では、点検報告書の記入ルールや書き方の […] 詳しく見る
バタ角とは?サイズ・用途・価格・他の木材との違いをわかりやすく解説|現場の基本知識 バタ角は「仮設や型枠など、現場で最も汎用性の高い角材」です。型枠や支保工などでよく使われる木材ですが、角材や2×4材との違いがあいまいなまま使っている方も少なくありません。 そこでこの記事では、バタ角の概要や他の木材との […] 詳しく見る
B工事とは?A工事・C工事との違い・費用負担・契約の流れをわかりやすく解説 オフィスや店舗を新しく出店する際、よく耳にするのが「A工事」「B工事」「C工事」という区分です。なかでも「B工事」は、建物のオーナーとテナント(入居者)双方が関わる特殊な工事であり、契約や費用の取り扱いを誤ると、思わぬト […] 詳しく見る
工事原価とは?仕訳・計算方法・原価管理の基本を徹底解説 建設業では、売上は受注時点で確定することがほとんどです。そのため、利益を確保する工事原価の管理が不可欠です。しかし、建設業の会計構造は複雑で、理解しづらいと感じる方も多いでしょう。 そこでこの記事では、工事原価の定義・内 […] 詳しく見る
作業手順書とは?目的・書き方・テンプレートを施工業者向けにわかりやすく解説 建設・設備・製造などの現場では、「作業手順書」の整備が安全と品質を守ることにつながります。しかし、「何をどこまで書けばいいのか」「Excelで十分なのか」「誰がつくるべきか」など、迷う担当者も少なくありません。 そこでこ […] 詳しく見る