施工体系図とは？建設現場で欠かせない安全と信頼の仕組みを徹底解説

建設現場で必須の「施工体系図」。名前は聞いたことがあっても、実際に作成するとなると「何を書けばいいの？」「法律上の根拠は？」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、施工体系図の定義から、建設業法上の位置づけ、具体的な書き方、注意点まで、初心者にも分かりやすく解説します。この記事を読めば、施工体系図の作成で迷うことはありません。

施工体系図とは？

施工体系図は、建設プロジェクトの全体像を把握するために欠かせない書類です。元請業者・下請業者・協力会社など、工事に関わるすべての関係者の関係性を図として整理し、誰がどの工事を担当しているのかを明確にします。

施工体系図の定義と目的

施工体系図とは、工事に関わる全ての企業・個人を一覧化し、業務範囲と責任の所在を明確にする図です。建設業法第24条の7に基づき、一定規模以上の工事を請け負う特定建設業者には、施工体系図の作成・提出が義務付けられています。

この図を作成する目的は、以下の3点です。

1 安全管理体制の可視化

工事に関わるすべての企業がどのように連携しているかを明確にすることで、安全衛生管理を徹底できます。

2 責任の所在の明確化

元請・下請それぞれの責任範囲を整理することで、トラブル発生時の迅速な対応を可能にします。

3 情報共有と円滑なコミュニケーション

施工体系図を関係者全員が共有することで、現場全体の連携がスムーズになります。例えば、現場で事故が発生した場合、施工体系図を見れば即座に該当業者と責任者を把握でき、対応が迅速になります。

このように施工体系図は「現場の見える化」を実現する基本資料であり、安全・品質・工程を支える重要な土台です。

（参考：国土交通省 「施工体制台帳、施工体系図等」 ）

なぜ施工体系図が必要なのか？

施工体系図の作成には、明確な法的・実務的な意義があります。
その理由を3つに分けて見ていきましょう。

1 建設業法に基づく法的義務

建設業法第24条の8では、施工体制台帳の作成等に関する義務は、公共工事においては発注者から直接請け負った公共工事を施工するために下請契約を締結したときに、民間工事（公共工事以外の建設工事をいう。以下同じ。）においては発注者から直接請け負った建設工事を施工するために締結した下請代金額の総額が 4,500 万円（建築一式工事にあっては、7,000 万円）以上となったときに生じるものと明記されています。

この法律の目的は、建設工事の適正な施工と下請取引の健全化を図ることです。万一、施工体系図を作成していない、または虚偽の記載があった場合には、行政指導や罰則の対象になることもあります。

（参考：国土交通省（関東地方整備局）「施工体制台帳等の作成義務」）

2 労働災害の防止と安全衛生体制の確立

建設業は労働災害が発生しやすい業種です。施工体系図を通して安全衛生責任者を明確化し、安全協議会や緊急時の連絡体制を共有することで、災害を未然に防ぐことができます。

実際、多くの現場では施工体系図を掲示することで、作業員全員が「誰が安全を管理しているのか」「自社の立ち位置はどこか」を把握し、危険予知活動（KY活動）の精度が高まっています。

（参考：厚生労働省「職場のあんぜんサイト」 安全衛生責任者 ／ 統括安全衛生責任者）

3 下請関係の透明化とトラブル防止

施工体系図は、下請業者との契約関係を明確にし、紛争を予防する役割も持ちます。

例えば、複数の業者が同じ区画で作業する場合でも、施工体系図によって工事範囲と責任分担が明確になっていれば、指示の重複や作業ミスを防ぐことができます。

結果として、プロジェクト全体の効率化と品質向上につながります。

施工体系図を作成する５つのステップ

施工体系図は決められたフォーマットに沿って作成する必要があります。

以下の5つのステップを順に進めれば、初めての方でも正確に作成できます。

ステップ1：基本情報を記入する

まずは、工事の概要を正確に記入します。

• 工事名・工事場所
• 発注者名
• 元請業者名
• 作成日・作成者
• 連絡先（現場代理人・安全管理者など）

これらの情報は、施工体系図の基礎データです。特に作成日を明記することで、図の有効期限や更新時期を明確にできます。現場担当者の連絡先も記載しておくと、緊急時の対応がスムーズです。

国土交通省 記載例資料（必須項目・担当工事・工期の書き方）

ステップ2：元請・下請の関係を図示する

元請業者を頂点に、下請・二次下請・協力会社を階層的に配置します。会社名・所在地・連絡先を明記し、資本関係（親会社・子会社など）がある場合は注記を入れましょう。この図示により、指揮命令系統と責任範囲が一目で把握できます。

また、複数の下請業者が存在する場合には、同一階層に横並びで配置し、混乱を防ぐのがポイントです。デザイン面でのポイントとしては、階層ごとに色や線種を変えると視認性が向上します。元請を濃い色で強調し、下請・二次下請を階層的に描くことで、誰がどの位置に属するかを一目で把握できるようにしましょう。

ステップ3：各社の担当工事内容を明記する

各下請業者が担当する工種（例：基礎工事、鉄骨工事、電気設備工事など）を明記します。必要に応じて、作業範囲や契約金額、作業期間を補足するのも有効です。担当範囲が明確であれば、工程管理や安全指導もスムーズになります。

また、記載漏れがあると責任の所在が曖昧になるため、工事開始前の確認が重要です。

ステップ4：安全衛生管理体制を記載する

安全衛生責任者、安全衛生推進者、作業主任者などの氏名と連絡先を記載します。さらに、安全衛生協議会の構成員、開催頻度、緊急連絡体制なども明記しましょう。これは労働安全衛生法に基づく安全管理体制の一部であり、現場の安全文化を支える基本資料となります。

例えば、「月1回の安全協議会」「週次パトロール実施」など、実施ルールを具体的に記載することで、現場全体の安全意識が高まります。

ステップ5：提出前に再確認するポイント

作成後は、以下の点を必ずチェックします。

• 記載漏れ・誤記がないか
• 最新の会社情報・連絡先になっているか
• 図の階層構造に誤りがないか
• 安全衛生責任者の変更が反映されているか

必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの専門家に確認してもらうと安心です。施工体系図は一度作成したら終わりではなく、工事の進捗や下請変更に合わせて随時更新することが求められます。現場での掲示・デジタル共有の双方を行うことで、誰でも最新の情報を確認できる状態を維持することが理想です。

施工体系図を作成する上での注意点

建設業法に違反しないために気をつけること

施工体系図の作成・提出は特定建設業者の法的義務です。虚偽の記載や記載漏れは、建設業法違反となる可能性があります。特に、下請業者の情報を意図的に省略したり、実態と異なる安全体制を記載することは厳禁です。不明点がある場合は、国土交通省や都道府県の建設業課に確認し、正確な情報に基づいて作成しましょう。

下請法との関連性も考慮する

施工体系図は、下請業者との契約関係を明確化する役割も持ちます。不当な取引（買いたたき・支払遅延など）は下請法違反となるため注意が必要です。口約束ではなく、書面での契約・明確な施工範囲を設定し、施工体系図と整合性を保ちましょう。

また、社内で下請法に関する研修を実施し、適正取引の意識を高めることも有効です。これにより、法令遵守だけでなく、信頼できる取引関係を築くことができます。
（参考：中小企業庁 下請代金支払遅延等防止法）

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